描くこととランドスケープ 



空間意識と抽象化



「すべての見えるものは 見えないものに触っている。

 聞こえるものは 聞こえないものに触っている。

 感じられるものは 感じられないものに触っている。

 おそらく、考えられるものは考えられないものに触っている。」



この文章に出会ったのは、もう随分昔のこと。
はっとさせられ、すとん、と心に降りてきました。

もやの中のつかめそうでつかめない、
けれど確かに感じる本質を、
わかりやすい言葉で明確に見つけられた瞬間。
この世界の謎解きのキーワードのようで。


けれども、この「言葉」が言い当てていることは、とても抽象的でもあります。


私の「絵」も、色に心を寄せて描こうとする時、抽象表現になります。


かたちがあるようでないけれど、存在しているもの。
その「間」
ずっと、心のどこかで制作の礎になってきたように思います。


今回、「ランドスケープ」という切り口で、絵画表現をひも解こうとするとき、
「抽象表現」がテーマになると感じました。

ランドスケープデザインも建築も、抽象化が難しいのですが、
絵画なら、その実空間にありながら、抽象化することが出来るだろうと考えました。
境界をグラデーションに重ね、なくすこと。
それは新境地をひらくことでもあります。


作品は日本画の画材をメインに用いて描くことにしました。
理由は、展示場所のランドスケープ(庭園)と建築の要素が多く、
その存在感が強いので、画面自体にも存在感を持たせたかったことと、
日本画の絵具は、貝や石を砕いて、泥や粉や砂にし、
動物の膠で溶いて絵具にするという、ほぼ自然素材であり、
その絵具や和紙がつくり出す風景は、ランドスケープだと感じたため。
また、日本画は古来から花鳥風月など、自然をモチーフとしてきたは、
四季の景色を感じ、心象風景を表してきたように思います。

GULI GULIという、ランドスケープと建築が豊かな風景を織りなしている場所、
その空間で個展を開催できることは、大学で専攻していた、
ランドスケープデザインと日本画を抽象化し融合させる時期が来たのだろう、と感じています。

様々な制作を経て、
今回の個展はこれまでの表現の着地点であり、新たな出発点になるのでしょう。



そして、観ていただいた方の心にも、風景が浸透し、
新たに立ち上がるような展覧会になればと願っております。





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